Introduction

いまこそあらためて、「寄りそうこと」「ともに生きること」
「平和って何だろう?どうしたらみんなが共存できるの?」 韓国の映画祭から、この「人類永遠の問い」を向けられた想田和弘監督は、岡山で暮らす人々や猫たちの何気ない日常にカメラを向けた。平和と共存へのヒントは、どこか遠くではなく、自分たちの毎日の生活、足元にこそ潜んでいるのではないか。そう、思ったからだ。想田の妻の実家・柏木家に住みついた野良猫グループと、突如現れた「泥棒猫」との確執。91歳で一人暮らしをする橋本至郎と、彼をボランティア同然でケアする柏木夫妻。その夫妻自身にも迫る老い。そして、己の死を見つめる橋本の脳裏に突然蘇った、兵隊としての記憶――。台本無しで回される想田のカメラは、彼らの人生や“ニャン生”に訪れる大切な瞬間に奇跡的に立ち会う。観る者は、戦争と平和、生と死、拒絶と和解、ユーモアと切なさが同居する「生の時間」を体感し、「共に生きる」ことの難しさと可能性に思いを巡らせる。
画像:家
よく観ること、よく聴くこと―― 『選挙』『精神』想田和弘監督が、今日を生き抜くヒントを探る。
画像:男性
監督の想田和弘は、選挙運動の舞台裏を赤裸々に描いた『選挙』(07年)、タブーと言われる精神科にカメラを向けた『精神』(08年)で国際的な評価を確立したニューヨーク在住のドキュメンタリー映画作家だ。リサーチや台本を排し、ナレーションや音楽を一切使わない独特のスタイル「観察映画」は、本作『Peace』でさらなる進化をみせている。本作は韓国・非武装地帯ドキュメンタリー映画祭でオープニング上映された後、世界中の映画祭から招待が殺到。東京フィルメックスでは「じわじわといろいろな思いが湧いてくる」「会場の一体感を感じた」「猫がかわいい」と、ドキュメンタリーとしては異例の〈観客賞〉に選ばれた。さらに、香港国際映画祭〈最優秀ドキュメンタリー賞〉を、ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭〈ブイエン&シャゴール賞〉を受賞。そして、ついに日本でも再び観察映画旋風が吹き荒れる!